Story
欧州M&A市場、2026年は戦略的再編が活発化 大規模案件が相次ぐ

Summary
2026年の欧州M&A市場は、マクロ経済への懸念を乗り越え、長期的な戦略的再編を目的とした大規模案件が活発化している。防衛技術、政府系ファンド、事業分離が主要なトレンドとなっている。
2026年の欧州におけるM&A(合併・買収)市場は、マクロ経済の不確実性を乗り越え、企業の長期的な戦略的再編を目的とした大胆な動きが活発化している。短期的な利益追求ではなく、将来の事業構造を見据えた大規模な案件が相次いでいるのが特徴だ。
長期視点での戦略的再編が活発化
市場の最も顕著なテーマは、企業経営陣が目先の四半期業績ではなく、次の10年を見据えた事業再編に注力していることである。ゴールドマン・サックスのEMEA(欧州・中東・アフリカ)地域M&A共同責任者は、「企業は長期的な戦略的視点を持ち、未来の立ち位置を確保するために投資している」と指摘する。
2026年上半期には、この傾向を裏付ける大型案件が複数見られた。
- ユニリーバによる食品事業の450億ドルでのマコーミックへの売却
- TKエレベーターとコネの340億ドル規模の事業統合
- ウニクレディトによるコメルツ銀行への280億ドルでの買収提案
- パラマウント・スカイダンスによるワーナー・ブラザース・ディスカバリーの1100億ドルでの買収(EUの条件付き承認を取得)
モルガン・スタンレーのEMEA地域M&A責任者であるヤン・ウェーバー氏も、「我々は次のピークに向かっている」との見解を示しており、市場の勢いが強まっていることを示唆している。
M&Aを牽引する3つの構造的テーマ
現在のディールフローは、主に3つの構造的な要因によって推進されている。
1. 防衛技術分野の集約
AdNATO加盟国全体での防衛予算の増額を背景に、自律型防衛システム分野で企業の集約が進んでいる。SCPスタンダード・キャピタル・パートナーズが自律型防衛技術企業2社を買収し、社名を変更したことは、地政学的な意味合いを持つ動きとして注目される。
2. 政府系ファンドの動向
中東の政府系ファンド(SWF)は、欧州の規制を乗り越えて大型投資を続けている。特に、国家による不公正な買収を抑制するために導入されたEUの外国補助金規則(FSR)が試金石となっている。サウジアラビアのPIFは、FSRの審査を経てエレクトロニック・アーツの550億ドルでの買収を完了させた。これは、湾岸諸国のSWFが欧州の規制を「取引を阻害する要因」ではなく「管理可能な摩擦」と見なしていることを示している。
3. 事業分離による案件創出
企業の事業ポートフォリオ簡素化の動きも、M&A市場の活性化に寄与している。ユニリーバの食品事業売却や、ハネウェルの3社分割、コムキャストのNBCユニバーサルからのスピンオフなどは、新たな買い手の機会を創出している。銀行関係者からは「記録的な数の事業分離案件」との声が上がっている。
規制当局の役割と市場への影響
現在、EUの規制当局は世界のM&A市場で最も重要なゲートキーパーとしての役割を担っている。主要な国際的案件はブリュッセルでの審査を経ており、当局はその影響力を行使している。パラマウントとワーナーの案件では欧州での配給事業からの撤退が条件とされ、PIFによるEA買収は合併規則とFSRの二重審査に直面した。
一方で、欧州の政策立案者は、EU域内での統合を促す「域内チャンピオン」の創設を後押しする動きも見せている。これは、EU域外からの買収には厳格な姿勢で臨みつつ、域内企業の再編には柔軟な対応を取るという、複雑な規制環境が形成されつつあることを示唆している。市場参加者は、この二重構造を理解した上で戦略を立てる必要がある。