Story
マイクロン、予想PER12.4倍の割安感 ― AIメモリー需要は「シリコンサイクル」を終わらせるか

Summary
AIインフラの中核を担うマイクロン・テクノロジーの予想PERは12.4倍と、その高い成長率に反して低い水準にある。市場は、AI向けHBM需要が従来の景気循環性を打ち破り、同社のバリュエーションが再評価される可能性に注目している。
半導体メモリー大手マイクロン・テクノロジー(MU)の株価評価が、市場関係者の間で議論を呼んでいる。同社の予想株価収益率(PER)は、2026年8月31日時点で12.4倍と、167%という驚異的な収益成長率を誇る企業としては異例の低水準にあり、AI(人工知能)主導の需要が構造的な変化をもたらすかどうかが焦点となっている。
AIが変える「シリコンサイクル」の常識
従来、メモリー市場は供給過剰と価格下落を繰り返す「シリコンサイクル」と呼ばれる景気循環性に左右されてきた。しかし、AIの台頭がこの構図を根本的に変えつつあるとの見方が強まっている。
- HBMの需要爆発: マイクロンによると、AIサーバーに不可欠な広帯域幅メモリー(HBM)の世界市場は、2025年の350億ドルから2028年には1000億ドルへと、年平均成長率(CAGR)約40%で拡大すると予測されている。
- 供給制約と価格決定力: 2026年向けのHBM4の生産能力は、すでに拘束力のある契約で完売状態にある。さらに、メーカーがHBMの生産に注力することで、従来のDRAMの供給が絞られ、製品全体の利益率を押し上げる自己強化ループが生まれている。
同社の売上高は、景気の谷であった2023年度の155.4億ドルから回復し、2025年度には373.8億ドル、アナリストのコンセンサス予想では2026年度に1295.5億ドルに達する見込みだ。この軌道は、もはや単なる景気循環ではなく、構造的なプラットフォームへの転換を示唆している。
予想を上回り続ける好調な業績
マイクロンは過去4四半期連続で、市場の1株当たり利益(EPS)予想を2桁の割合で上回る好決算を発表しており、その勢いは衰えていない。
Ad- 2026年度第3四半期: 実績EPS $25.11(予想比+22.6%)、売上高 $414.6億(予想$356.9億)
- 2026年度第2四半期: 実績EPS $12.20(予想比+38.8%)、売上高 $238.6億(予想$191.9億)
- 2026年度第1四半期: 実績EPS $4.78(予想比+21.3%)、売上高 $136.4億(予想$128.3億)
- 2025年度第4四半期: 実績EPS $3.03(予想比+9.4%)、売上高 $113.2億(予想$111.1億)
次回の決算発表は2026年9月30日に予定されており、市場コンセンサスはEPSが31.14ドル、売上高が504.1億ドルとなっている。これまでの実績から、市場の期待は高まっている。
市場の評価と潜在的リスク
バンク・オブ・アメリカは、従来型メモリー事業とAI向けHBM事業を個別に評価する手法(SOTP分析)に基づき、目標株価を1,550ドルに設定し、同社をトップピックに挙げている。これは、AI関連の半導体企業と同等の評価をHBM事業に適用したものだ。
一方で、懸念材料も存在する。2027年度に売上高が2490億ドルへと倍増するという現在のコンセンサス予想は極めて野心的であり、高い実行能力が前提となる。また、米国での大規模な製造拠点建設に伴う巨額の設備投資は、フリーキャッシュフローを圧迫する要因だ。さらに、従来型DRAM市場における中国企業の台頭や、HBM市場でNVIDIAとの関係が深いSKハイニックスがシェア首位である点も長期的なリスクとして指摘される。
マイクロンの12.4倍という低い予想PERは、市場が依然としてメモリー業界の「景気循環性」という割引を適用していることを反映している。もしAI主導の需要がこのサイクルを構造的に破壊したことが証明されれば、この割引は解消され、株価評価はAI関連企業の水準へと再評価される可能性がある。9月30日の決算発表は、その方向性を占う上で重要な試金石となるだろう。